22歳の時、俺は300万を騙し取られた。
残ったのは、憧れの車じゃない。
毎月、無慈悲に引き落とされるローンだけだった。
しかも金を奪った車屋は、途中からこう言い始めた。
「俺のバックにはヤクザがおる。」
22歳の現場職人だった俺は、その言葉だけで完全にビビっていた。
こんにちは。現場職人の「俺」です。
このブログのテーマは、「焦りは死、ビビりは生」。
今回は、その言葉が生まれた理由。
俺が人生で初めて、本気で
「終わった」
と思った日の話です。
1. 120万のZ。それが俺の夢だった。
当時の俺は、地方の現場職人。
朝は早い。
夏は灼熱。
冬は凍える。
毎日、鉄粉と汗まみれ。
でも唯一楽しかったのが、車だった。
仕事終わりに工具を握って、自分で車をいじる。
夜中まで足回りを替えて、配線を触って、オイルまみれになる。
金は無かった。
でも、あの時間だけは自由だった。
だから夢だった。
120万の中古フェアレディZ。
高級車じゃない。
でも俺にとっては、“頑張った人間だけが乗れる車”だった。
中古車サイトを毎日見ていた。
「この型いいな…」
「このホイール履かせたいな…」
そんな事ばかり考えていた。
その時だった。
近所に、めちゃくちゃかっこいい車屋を見つけた。
2. 初めて感じた「本物」の空気
店の前には、イベント仕様みたいな改造車。
低い車高。
爆音マフラー。
雑誌に出てきそうな車。
職人だった俺には、それが“成功者の世界”に見えた。
店主は、とにかく口がうまかった。
初対面なのに距離感が近い。
ずっと喋ってる。
車。
女。
金。
イベント。
有名ショップ。
昔の武勇伝。
話が止まらない。
だいたい店の奥のソファに座って、足を組みながら喋っていた。
煙が異常に出る電子タバコを吸いながら。
当時はまだ、そんな電子タバコ吸ってる奴なんかほとんどいなかった。
店主は、その電子タバコで煙の輪っかを吐いていた。
でんじろう先生の空気砲みたいに、綺麗な輪っかが「ボンッ」って飛んでいく。
店の薄暗い照明の中を、白い輪っかがゆっくり浮かんでいく。
今思えばめちゃくちゃダサい。
でも当時の俺には、それすら異様にかっこよく見えた。
俺も影響されて、同じ電子タバコを買った。
現場終わりに鏡の前で煙の輪っかの練習までしてた。
でも全然できない。
「フッ!」ってやっても、ただ煙が散るだけ。
それでも、
「俺もそっち側に行ける」
みたいに勘違いして、イキっていた。
店のテレビでは、毎回決まってダサい洋楽のMVが流れていた。
黒人ラッパーが札束を投げて、半裸の女が踊ってるようなやつ。
あと今思い返すと地味に面白いんだけど、店で
「トイレ借ります」
って言うと、店主は絶対、
「返してな?」
って言ってきた。
毎回。
100%。
今思えば全部ダサい。
でも当時の俺には、その全部が“デカい男”に見えていた。
さらに厄介だったのが、店主は有名ショップの社長とも繋がっていたことだ。
イベントへ行くと、
「おぉ、久しぶりっす!」
みたいに有名ショップの社長と普通に話してる。
雑誌で見たような人たちと笑いながら喋っている。
その瞬間、
「この人、本物なんだ」
って完全に信じ込んでしまった。
しかも店に戻ると、その有名ショップの社長のことを普通にあだ名で呼んでいた。
「アイツさ〜」
「あのハゲまた調子乗っとったわ」
「昔は俺の方がセンスあった」
みたいな感じで。
22歳の俺からしたら、それが余計にヤバく見えた。
“業界の上の人間とも対等に喋れる男”
みたいに見えてしまった。
今なら分かる。
ただ距離感バグってるだけの人間もいる。
でも当時の俺には、その全部が“本物感”に見えていた。
完全に飲まれていた。
3. 車イベントで、俺は壊れた。
数日後、店主にイベントへ連れて行かれた。
そこで俺は、完全に飲み込まれた。
ネオン。
爆音。
タイヤの焼ける匂い。
有名ショップのデモカー。
女。
SNSで見た世界が、目の前にあった。
俺が夜中に一人で工具握って作っていた世界とは、全部スケールが違った。
そこで、心が壊れた。
「俺のやってる事、ダサいんじゃないか?」
「もっと一気に行かなきゃダメなんじゃないか?」
焦りが生まれた。
“コツコツ積み上げる職人感覚”が、その夜だけ消えた。
帰り道。
店主がタバコを吸いながら言った。
「86、新車で作ろうや。」
気づいた時には、俺は頷いていた。
4. 「俺を通せ」──空気が変わった夜
後日、俺は普通にディーラーへ行った。
ローン審査。
見積もり。
本来なら、それが正解だった。
でも、その日の夜。
店主に電話した瞬間、空気が変わった。
「……は?」
低い声だった。
「お前、俺通さずディーラー行ったん?」
背筋が凍った。
店で見た時とは別人だった。
「いや…ちょっと見積もりだけ…」
すると怒鳴られた。
「業界ナメんなよ。」
「俺が全部やる言うとるやろ。」
22歳の俺は、本気で焦った。
“プロの顔を潰した”
本気でそう思ってしまった。
今なら分かる。
あれは支配だった。
でも当時の俺には分からなかった。
5. 300万。人生で初めて触る札束。
数日後。
俺はローン契約をした。
本来なら、その金はディーラーへ支払われるはずだった。
でも店主は言った。
「こっちで全部やる。」
「一回、俺に渡して。」
疑わなかった。
完全に信用していた。
銀行の窓口で300万を下ろした。
分厚い札束。
手が震えた。
「人生変わる」
本気でそう思っていた。
でも、本当に変わるのは別の意味だった。
封筒を抱えて店へ向かった。
店主はいつものようにソファに座っていた。
電子タバコを吸いながら、ずっと喋っていた。
「このホイールは〜」
「イベント出したら絶対目立つ」
「有名ショップよりセンスある」
喋り続ける。
ずっと夢を見せてくる。
そして、都合が悪い話になると、急に立ち上がって仕事し始める。
「あ、ちょっと今忙しいわ」
「あとで電話する」
リフトの方へ行って、工具を触り始める。
今思えば、完全に逃げだった。
でも当時の俺は、
「忙しいプロなんだ」
って本気で思っていた。
6. 「俺のバック、ヤクザおるから」
金を渡した辺りから、店主の様子が変わった。
やたらと、“怖い話”をするようになった。
「俺のバック、ヤクザおるから。」
「〇〇組と飲んだ。」
「昔ヤバい奴らと動いてた。」
最初は冗談かと思った。
でも、何回も聞かされる。
しかも、急に真顔で言う。
その度に、空気が重くなる。
22歳の俺には、それだけで十分怖かった。
今思えば、完全に“匂わせ”だった。
逃げられない空気を作るための。
気づけば立場が逆転していた。
客だったはずの俺が、店主の顔色をうかがっていた。
7. 車が来ない。
1週間。
2週間。
1か月。
店主は言う。
「もう来る。」
「今、登録中。」
「部品待ち。」
でも、おかしい。
電話が減った。
LINEの返信が遅い。
店へ行くと、目を合わせない。
心臓がザワつき始めた。
ある日。
嫌な予感がして、直接ディーラーへ電話した。
すると担当が静かに言った。
「……お客様、お支払い確認ができていません。」
頭が真っ白になった。
「え?」
「車両代金、未納です。」
その瞬間。
身体の熱が一気に引いた。
ローンは通ってる。
でも、車の金が払われていない。
つまり——
300万が消えていた。
8. 「生活費に使った」
俺はそのまま車屋へ向かった。
店主はいた。
でも、以前みたいな勢いは無かった。
俺は震えながら聞いた。
「金は?」
沈黙。
長かった。
時計の音だけが響いていた。
そして店主は、小さく言った。
「……使った。」
「は?」
「生活費に。」
その瞬間。
頭の中で何かが切れた。
300万。
何年もかけて返すローン。
現場で身体削って働く未来。
全部、他人の生活費になった。
数日後。
86はディーラーに回収された。
22歳の俺の手元に残ったのは、
夢でも車でもない。
毎月引き落とされる300万のローンだけだった。
9. 遮光面の中で泣いた
現場では普通に働いた。
でも無理だった。
溶接しながら、涙が出た。
遮光面の中だから、誰にもバレなかった。
昼休み。
コンビニ駐車場でローン残高を見た。
300万。
その数字を見ても、意味が理解できなかった。
「ああ、終わった。」
本気でそう思った。
でも今なら分かる。
俺を殺しかけたのは、詐欺師じゃない。
俺自身の、
「無知」と「焦り」だった。
孤独な人間ほど、“すごそうな奴”に憧れてしまう。
でも焦った瞬間、人はカモになる。
だから今の俺は、ビビりながら生きている。
投資も。
仕事も。
人付き合いも。
簡単に信じない。
すぐ飛びつかない。
焦りは死。ビビりは生。
孤独な職人は、今日も現場に立っています。
——そして、この話には続きがあります。
300万を奪われたまま、終われるわけがなかった。
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